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ディズニー映画、ドナルドダックと第二次世界大戦

大学で西洋史をやっていたということで。
今回は、ディズニーと西洋史を絡めて文章書いてみたいと思います。

1.はじめに

 世界的に有名なアニメーターの一人であるウォルト・ディズニーは、1901年12月5日にアメリカのイリノイ州シカゴの貧しい家庭に生まれた。彼は昔から絵やマンガを描くことに興味をもっており、アニメーションに出会ってからはアニメ作りに没頭するようになっていった。
 配給の問題や版権問題など様々な問題に直面しながらも、ウォルトは世界初のトーキーアニメ『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』で大成功を収めた。これがあのミッキーマウスの映画デビュー作である。1937年12月21日には世界初の長編カラーアニメ『白雪姫(Snow White and the Seven Dwarfs)』が公開され、空前の大ヒットとなった。ウォルトはアニメを芸術の域まで高めた人物なのである。

 この頃、世界的に何が起こっていたかを一度復習しておく。1929年、アメリカのウォール街で株価が大暴落し世界恐慌が起こった。この後、日本は満州事変をきっかけに国際連盟を脱退、ドイツではヒトラー内閣が成立。日本、ドイツ、イタリアの三国による協力体制が作られ始めた、第二次世界大戦目前の時期であった。白雪姫は、そういった時代に製作されていたのだ。

 1939年、第二次世界大戦が始まった。このような中でも、ディズニースタジオは、最初はピノキオやファンタジアなど戦争とは関係のない作品を製作していた。しかし、1941年の真珠湾攻撃をきっかけにアメリカが第二次大戦に参戦すると、ディズニースタジオも政府の依頼でプロパガンダ映画を製作するようになった。

 本稿では、ディズニーによる戦争映画のうち、ドナルドダックに関連した作品に焦点を絞って話を進めていく。なかなか表に出ることが少ない作品であるが、少しでも気になったら視聴してみることを先に強くおすすめしておく。(Y○u T○beやニ○動なんかで英語タイトル入れてみると結構出てきます)

2.ドナルドダック

 『シリー・シンフォニー(Silly Symphony)』シリーズ*1の『かしこいメンドリ(The Wise Little Hen)』(1934年6月9日公開)でドナルドダックはデビューした。ドナルドの、ものぐさで怒りっぽい短気なトラブルメーカーというキャラクターは、礼儀正しい優等生のミッキーとは異なり、かなり人間的であった。その個性の強さから人気を得て、ミッキーマウス・シリーズにも出演するようになっていった。次第にミッキーマウス・シリーズの中で主役の座をミッキーから奪うようになり、『ドナルドの駅長さん(Donald’s Ostrich)』(1937年12月10日公開)で自分のシリーズをもつようになった。
 1941年12月8日のアメリカ参戦から1945年8月15日の第二次世界大戦の終結までに公開されたディズニーのシリーズ短編作品の数は、ドナルドは24本、グーフィーは13本、プルートは11本、ミッキーは2本であった。大戦中も相変わらずドナルドの人気は衰えなかったのだ。このドナルド短編映画のうち、戦争に関わりがあると考えられる作品は8本であった。*2
 ただし、これらのドナルド作品すべてに戦意高揚を狙った要素があるかと考えると、必ずしもそうとは言えない。『ドナルドの入隊(Donald Gets Drafted)』ではドナルドは軍に入るものの、そこでは足が棒になるまで歩かされたり、上官に厳しく叱られたりしている。『ドナルドのパイロット(Sky Trooper)』では、空高くを飛行する飛行機から、落下傘部隊として上官に落とされそうになるのにドナルドは必死に抵抗している。このように、第二次大戦期のドナルドは、兵士としていくつかの短編作品で活躍しているが、滑稽でありながらも上官のもとで過酷な状況に置かれている兵士として描かれている。これらの作品は戦意高揚を狙ったプロパガンダ作品というよりは、当時の人々の気持ちを代弁し、共感を得るようなものとして製作されたのではないかと考えられる。
 これらの作品と少し雰囲気の異なる映画が、『総統の顔(Der Fuehrer's Face)』である。この作品については、次の節で述べていく。

3.『総統の顔』

 資金援助を条件として政府が製作を依頼した、反ナチ要素を前面に押し出した作品の1つである。 ハーケンクロイツを身につけた軍人たちが『総統の顔』という歌に合わせて楽器を演奏しながら行進をするシーンから始まる。 自宅で寝ていたドナルドが、彼らの銃剣によって起こされ、粗末な朝食を取り、工場で働かされるというのが大筋の流れである。工場で働くドナルドは過剰な要求に疲れ果て、しまいには錯乱状態に陥ってしまう。ここまでの話はすべてドナルドの夢であり、星条旗柄のパジャマに包まれて悪夢から目覚めたドナルドが、窓際に置かれた自由の女神像にアメリカ国民でよかったとキスをする。このシーンの直後、ヒトラーの似顔絵が登場する。そのヒトラーの顔面にトマトのようなものが投げつけられ、ヒトラーが“THE END”という文字に変化して話が終了する。
 この作品はもともと『ナチランドのドナルド(Donald in Nutziland)』というタイトルで公開される予定であった。しかし、作品に先立って発売されていた挿入歌が150万枚を売り上げる大ヒットとなり、映画の方も挿入歌と同じタイトルへと変更されることとなった。この歌は無礼な歌詞と句読点のように挟まれる唇の音、何度も繰り返されるメロディーが特徴となっている。この音楽の効果もあり、この作品は1942-43年のアカデミー短編アニメ賞を受賞した。

4.おわりに

 ウォルトは決して、戦争・プロパガンダ映画を製作することについては前向きではなかった。ただ、スタジオ存続の危機に陥っていたために、戦争映画を作らざるを得なかったのである。ディズニーの戦争映画が表だって取り上げられる機会はなかなか少ないように思われる。ただ、身近なアニメ、ディズニーといったものを通して戦争を考えるというのも面白いのではないだろうか。

参考文献
  1. マーク・エリオット(古賀林幸訳)『闇の王子ディズニー(上)、(下)』(草思社、1994年)
  2. ニール・ゲイブラー(中谷和男訳)『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』(ダイヤモンド社、2007年)
  3. レナード・マルティン(権藤俊司、出口丈人、清水知子、須川亜紀子、土居伸彰訳)『マウス・アンド・マジック——アメリカアニメーション全史(上)』(楽工社、2010年)
  4. ボブ・トマス(玉置悦子、能登路雅子訳)『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯』(講談社、1983年)
  5. カルステン・ラクヴァ(柴田陽弘、真岩啓子訳)『ミッキー・マウス-ディズニーとドイツ』(現代思潮新社、2002年)
  6. セバスチャン・ロファ(古永真一、中島万紀子、原正人訳)『アニメとプロパガンダ』(法政大学出版局、2011年)
  7. 柳生すみまろ、デイヴ・スミス『ディズニーアニメーション大全集 新版』(講談社、2014年)

*1:ミッキーマウスのみで作品製作を行うことに不安を覚えていたウォルトが新しく製作したアニメシリーズ。『三匹の子ぶた(Three Little Pigs)』はこのシリーズのひとつである。

*2:ミッキーは戦争の要素を含む映画には一切出演していなかった。